Zure Zure 日記

瑣末な日常を Zure た視線でやぶにらみ

添乗奇譚

あちこち添乗に行ってますと、いろいろな目に遭います。

楽しかったことや苦労したこと、悔しかったり、悲しかったりしたこともあったわけですが、時には 【恐い思い】 をしたこともあり、ここではそんな経験をちょびちょび書いてみたいと思います。

ちなみに私はガキのころから、いわゆる 【霊感】 がやや強い方らしく、これまでも結構な体験もしてます。

そんなんもとりまぜて、ではいくつか…

  

  

  

巻之一●青い少年

拙宅からリンクをはらせていただいている、こちらは現役添乗員 MoMo さんのサイトに投稿して掲載していただいたものです。

  

場所は中国の古都・西安

誰もが知ってる有名ホテルでのことです。

時は、えー 忘れちまいました。

たぶん私がまだ駆け出しのころだったと思います。

  

一日が終わり、ベッドに入るや否や寝てしまった私。

ふと息苦しさを覚え、目を覚ますと、体がちっとも動きません。

「ん… あれ?」

全然動きません。

「あんだよー ったくよー どーなってんだよー」

さっぱり動きません。

「これが金縛りってやつかあ?」

「ひ… か、金縛り…?」

バカみたいですけど、自分で言った【金縛り】という言葉に、現実に戻り、

「こここ、これが金縛り…?」

と、いきなり恐怖感に襲われました。

  

そして、体が動かないばかりか、何かがのしかかって来るんですね。

私は仰向けに寝ていたのですが、私の両手首を誰かがしっかりと握りしめ、全身を私にあずけるかのように、のしかかってきます。

「子供みたいだな…」

私の両手首を握りしめている手が、小さいんですね。

しかも冷たい。

すごく冷たい手です。

  

私は 175cm / 80kg ですので、体格的には小さい方ではありません。

その私の上に、小さく冷たい体の子供が渾身の力を込めてのしかかってきます。

子供の息吹が聞こえてくるかのような錯覚にとらわれました。

本能的にやばいと感じた私は、贅肉に覆われた中、わずかに残された筋肉を、レッドゾーン突撃フルパワーで起動し、冷たい子供をはねのけようとしました。

その時、往年の猪木やらスタン・ハンセンやらの姿が脳裏をよぎり、

   

だああああああああああああああああああああああああああああ

と雄叫び一閃(笑)

  

ぷよぷよ脂肪のぬるま湯の中で惰眠をむさぼっていた、ほんの一握りの筋肉が動き始めました。

  

吸気! 臍下丹田に大地の気を込めー (ω・´ )━━(・ω・´)━━!

混合! 体内にふつふつと滾る気合いをあわせー (`・ω・´)シャキーン━━━ !!

燃焼! 一気にパワー爆発ううう ヾ(;゚曲゚)ノ オラーーー!!!

排気ぃぃ… ( ´・ω・)━━( ´・ω)━━ ハァハァ…

って、 4 ストかいヾ(^^; マタ、ソンナイイホウニイウ…

  

と、とにかくそんなんで私は満身の力を込めて、その子供をはねのけ、ベッドから飛び起きました。

  

私の目の前に子供が立っていました。

10 才に満たないぐらいの、前髪は短く刈り込まれており、青いセーターのような、Tシャツのようなものを着ています。

   

そして片手にはにぶく光る包丁のようなものを持っていました。

思わず息を飲んだ瞬間、

その少年は消えていました。

  

私は今、自分にどういうことが起きたのか把握できず、しばらくそのまま立っていましたが、ふと両手首を見ると、

ご自分の手首を、もう片方の手でしっかりと握りしめてみてください。

指の跡が残りますよね。

そうした跡が、私の手首にしっかりと残されていました。

ところどころ青あざになってます。

そしてトランクス一枚で寝ていた私の体には、あちこちに切り傷やみみず腫れ、爪で引っかかれたような跡がありました。

  

それを見た途端、私は瘧のような震えに襲われ、立っていられなくなりました。

そのままうずくまり、毛布を抱えて部屋の隅に這っていきました。

そして毛布にくるまって、一晩中がたがた震えていたのを覚えています。

   

あの子は誰なんだ?

なんで俺はキズだらけなんだ?

誰がやった?

あの子か?

そういえば包丁のようなものを持っていた

あれで俺をキズつけたのか?

また来るのか?

来たらどうしたらいいんだ?

俺は殺されるのか?

なんで?

なんで俺は殺されなきゃいけないんだ?

  

東の空がほのかに明るくなってきました。

この時ほど、太陽の光をありがたく、また力強いものだと感じたことはありません。

私はうずくまっていた部屋の隅から立ち上がろうとしましたが、部屋の隅が私の安住の地というか、ここに座っていたから大丈夫だったんだ、という妙な感触を感じました。

   

しばらく座っています。

だいぶ明るくなってきました。

震えもおさまった体を起こし、テーブルに置いてあったタバコに火をつけ、深々と紫煙を吸い込みました。

テレビをつけます。

朝のニュースを早口のアナウンサーがまくしたて、コマーシャルになりました。

いつもと変わらない中国の脳天気コマーシャル。

いつもと変わらない日常がそこにありましたが、私はその日常から隔離され、他の場所から冷ややかな目でそれを見ているような感慨を覚えました。

   

俺は今、どこにいるんだ?

  

外はすっかり明るくなっています。

早起きの中国人たちがジョギングをしたり、太極拳をしたりしている姿が、あちこちに見えます。

二本めのタバコを吸い終えた時、私はすっかり元の世界に戻ってきたような感覚を覚えました。

  

熱いシャワーを浴びました。

いきなり熱いお湯を浴びた体中のキズから、きしむような悲鳴があがりましたが、かまわず浴び続けます。

着替え、またタバコに火をつけ、私は今日の添乗をこなすべく、部屋から出ていきました。

   

その後、そのホテルには何度か泊まりました(爆)

さすがにいやなものを覚えましたが、でもこんなことがあったのは、これっきりです。

   

   

   

巻之二●「 Sir ~」

アメリカでのこと。

皆さんはアメリカっていうと、どんなイメージを持たれますかね。

 

自由の国

広大な大地と雄大な自然

人種の坩堝

西部劇

本家ディズニーランド

銃社会

世界の警察きどり

   

どれも正解でしょうね。

  

私は今まで仕事でしかアメリカに行ったことがありません。

初めて添乗でアメリカに行かされることになった時。

うちの会社には中国はよー知らんけど、欧米のことならよく知ってるよー というのがいっぱいいまして、まぁそーゆー人の方が普通なんですけど、そんな人から色々なレクチャーを受けました。

んで、やっぱり注意しなきゃ行けないのは、治安が悪いというところですよね。

自分が遊びに行くならともかく、添乗員ということはお客さんを連れて行くわけで、自分のことはともかく、お客さんの安全に気を配らなきゃいけません。

   

で、アメリカの場合は、

「こっからここまでは安全。こっから向こうはアブナイよ」

みたいにきっちり分かっちゃうことが多いです。

 

例えば、ロスアンゼルス

日系人社会では非常に大きい規模のリトル・トーキョー。

リトル・トーキョー内は非常に安全です。

常に警官がふたり組ぐらいで巡回してますので、真夜中でも全然平気です。

しかし、道路一本隔てると、ヒスパニック系の人が多い倉庫街があるのですが、この辺はヤバイらしいです。

だから

「この道路からこっちは安全だけど、あっちはヤバイですぜ」

ということになるんですね。

  

そんなのはいっぱいあります。

ワシントン DC のノースウエスト地区以外はアブナイとか、ボストンの地下鉄オレンジラインのチャイナタウンより南とか、デンバーでもそんなのがあったし、一風変わったところでは、サンフランシスコのゲイ・ストリートとか。

  

ゲイ・ストリート自体は別にアブナイということはないと思います。

ずいぶん前に話題になった 「ツインピークス」 というドラマと同名の丘がサンフランシスコ郊外にあります。

ここがドラマの舞台になったわけではないのですが、サンフランシスコではゴールデンゲイトブリッジやフィッシャーマンズ・ワーフと並ぶ観光地になってます。

で、このツインピークスから市内に入ってくると、やたらとベランダに鉢植えが飾ってあるアパートがあったりとか、いろいろな色のシマシマ模様の旗がかかってたりする一角にでます。

ここがゲイ・ストリートです。

とってもきれいです。

車道の中央分離帯にはヤシの木が植えられたり、おっしゃれーな感じのレストランとかあったりして。

何でも、自分たちの街は自分たちできれいにしよう、とゲイたちが金を出し合って環境整備をしているとか。

で、ヤシの木の終わるところでゲイ・ストリートも終わってまして、非常にわかりやすいです。

  

ただいくらなんでも、真夜中の週末に一人でゲイ・バーでも入って無事に済むかどうかはわかりませんが…(笑)

  

こんなんで棲み分けがされている、というか、境界線がはっきりしていることが特徴でもあるわけですけど、んじゃぁアメリカの街がすべてこうかと言うと、決してそんなことはないのが、この国のヤラシーとこ。

例えばダラスとかアトランタといったような南部の街ですね。

この辺はどーもよくわかりません。

よく知ってる人に言わせれば、

「ダラスもアトランタも全然だいじょぶだよー」

とか思うのでしょうが、このふたつの街で、ちょっとだけコワイ思いをしました。

   

まずアトランタ

よくありがちな話しですが、出発前のミーティングではすべてのホテルが予約 OK のはずなのに、いざ現地に行ってみると、オーバーブッキング(過剰予約)で部屋が足りない、とか。

アトランタに行った時もそうでした。

お客さんの分の必要な部屋数はあるのですが、私の部屋だけない、と。

   

んで、そのホテルの道路一本隔てた別のホテルに、私の部屋を取りました、と現地ガイドから言われました。

その時の予定はアトランタに一泊だけして、翌日の早朝から移動してしまうので、私も はいはいそうーですか、とお客さんに必要な案内をして、解散。

スーツケースがらがら引っ張って、道路一本向こうのホテルに行きました。

   

チェックインしている最中に、ふと後ろからひそひそ話す声がしました。

別に聞く気もなかったし、第一わたしゃ英語はほっとんどできないヾ(^^;アンタ、テンジョーインデショ… ので、気にもとめなかった(とめられなかった? 爆)のですが、不思議なことにそういう話しだけは、なんだかとってもよく理解できたりします。

後ろの声曰く、

「なんか最近、ここのホテルで強盗があったらしいね。なんでもボーイを装って部屋に入って、脅してさー 財布やらカードから全部ひっさらったあとで、ひざまずいて命乞いする人のこめかみに銃弾ぶちこんだって」

ま、まぢっすかぁぁ… (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

「だから俺もここはあんまり泊まりたくなかったんだけどさー」

って、んじゃ、来るなよ…

「え、えらいとこに来ちゃったなー そんで、部屋に入ったらじゅうたんに血痕が残ってたりしたらどーしよー」

   

で、部屋に入りましたが、もちろんそこには、すっかり変色してどす黒くなった血痕などがあるわけもなく、私はやすらかな眠りにつきました。

  

翌朝、たしか 6 時ぐらいに出発だったと思うのですが、 5 時半ごろにそこのホテルをチェックアウト、お客さんが泊まっている、道路一本向こうのホテルに向かおうとしまいました。

すると玄関のベルボーイが

「どちらまで?」

「あそこのホテル」

「かしこまりました。あいにくとこの時間ですので、すぐのタクシーがございませんが、少々お待ちいただければすぐに呼んで参ります」

「あ、いえ、あそこのホテルに行くだけだから、タクシーなんかいらないよ」

「いえ。お客様。すぐに車は参りますから」

「いらんっつうに。あそこのホテルなんだから、歩いていくよ」

「いえ。お客様。すぐに車は参りますから」

「(あれ? 俺の英語通じてないのかな…)だ、だからね、あそこのホテルへ行くんだから、タクシーはいらない。俺は歩いていくの! わかった?」

「いえ。お客様。すぐに車は参りますから」

  

そのベルボーイ、歩いていくという私の腕をつかまえちゃって、離そうとしないんですよね。

「て、てめー こ、こら、はなせ! はなせ! っつうに!」

「いえ。お客様。すぐに車は参りますから」

チップがほしいのかな? とも思ったんですよね。

あんまり執拗なので。

だけどどうもそんな感じではありません。

  

んで、あそこに行くだけなのに、なんでタクシーで行かなきゃならんのだ? と聞いてみました。

曰く、

「人通りの少ないこの時間に、そんな大きなお荷物をさげて、しかもお一人でお歩きになられるのは大変危険です」

( ̄□ ̄;

だって、すぐ目の前の、あそこのホテルじゃん… そらぁ横断歩道渡ろうと思ったら、ちょい遠まわりしなきゃいけないけど…

    

って、あれ、あんなとこに眼が泳いじゃってるお兄ちゃんが座ってますねー(爆)

って、あそこにも眼が飛んじゃったお兄ちゃんが寝てますねー(爆)

って、けけけ、けっこーいやがんなー そんなお兄さま方…(爆)

   

昼間はそんなことないんですけど、やっぱり夜から朝にかけてというのは、夕べラリラリまくりのお兄さま方とか、まだ飲んでるお兄さま方とか、そんなんがけっこううろうろしてるみたいです。

  

私はおとなしくタクシーに乗ることにしました。

ベルボーイが電話したり、通りに出て流しのタクシーを探してくれましたが、なかなか見つかりません。

そろそろ集合の時間になってしまいます。

私は事情を話して、時間がないからやっぱり歩いていく、なーに、あっしだってニッポン男児の端くれ、いざっつうときゃぁ、意地でも一太刀浴びせてやりまさー だんなはここでとっくり見てやっておくんなせー みたいな感じで行こうとしますと、

「それでは私がご一緒させていただきます」

と。

  

そのベルボーイ、もう 50 に近いぐらいのすげー恰幅のいい黒人のおっさんでした。

「お荷物は私がお持ちしましょう」

「あ、どどど、どーもすいません」

んでふたりで歩き出したのですが、眼が泳いだり飛んだりしてたお兄さま方は、ちらりとこちらを見るものの、

「け! あんなのがついてんじゃめんどくせーや。俺の気がかわらねーうちに、さっさと行きな、ジャップ野郎」

みたいな感じで、相変わらず座るわ、寝るわしてます。

  

あ、でも一人で歩くのはやっぱちょっとコワイわ…

無事、ホテルについた私は、そのベルボーイに 10 ドルのチップを渡しました。

「 Thank you,Sir 」

結局、移動する距離は全然関係ないんですね。時と場合によっちゃぁ、道路の向こう側に行くだけでもアブナイ時があることを実感しました。

これがアトランタでのこと。

   

んで、ダラスなんですけど、ここもなんだかよくわからない街でした。

ダラスには何度も行ってますので、何の添乗だったかは覚えていないのですが、大きな展示会があって、それを見に行ったときのことです。

昨晩はお客さん数人とメシを喰いに出かけまして、若い人たちばっかりだったので私も必要以上に気をつかうこともなく、楽しくメシ喰って、ついでに飲みました。

で、時間もだいぶ遅くなっていたのですが、数人でブラブラ歩いて帰ったんですね。

      

で展示会の日。

主なホテルから展示会場までは無料のシャトルバスがありますので、それに乗ってお客さんを会場まで案内し、あとは昼食の場所や帰りのシャトルバスの発着場や時間などをインフォームします。

で、あとは仕事がありません(爆)

一応、私も会場をひとまわりしますが、専門分野の展示会だけに門外漢の私にはなんだかさっぱりわからず、各ブースで配ってるボールペンやら PC の画面を拭くブラシとか、レターオープナーとか、そんなんを漁って、客引き用の露出度満点のパツ金ねえちゃんの姿を、柱の陰からじっくり堪能(笑)したあとは、もう会場にいてもすることないんですね。

こんな場合、まぁケースバイケースなんですが、会場の近くに時間をつぶせるようなところがあれば、そこに行きますし、なぁ~んにもない場合はホテルに戻ったりします。

このダラスでも、まわりには何もなく、部屋でごろごろしてるか、というわけで、いったんホテルに戻ることにしました。

   

バス停の時間を見ると、シャトルバスは、夕方になるまでありません。

タクシー使っても、渋チンの上司から精算の時に跳ねられそうだしなー(笑)

   

道はわかってましたし、天気もよかったので、歩いて戻ることにしました。

ぷらぷら歩いていきます。

ちょうどこの日は日曜日でして、展示会場はわりとオフィス街のようなところにあるので、ほとんど人通りはありません。

だーれもいない道をてれてれ歩いてますと、前からいかにもっつう兄ちゃんふたり組が歩いてきました。

   

「あー なんか、コワそー」

とか思っても、いきなり道路を横切って、反対側の歩道に行っちゃうのもミエミエですよね。

「なんで俺たち見て、そっち行っちゃうんだよー こらぁ ああ?」

みたいに言われたらヤダし…

やっぱこのまま歩いてさりげなくすれ違うのがいいよな… すれ違った瞬間に刺されるとか撃たれるなんてないよなー 真っ昼間だしなー

   

で、どんどん距離は狭まってきます。

私は、

「おらぁこう見えても、日本ぢゃ、ちょいうるさいお兄さんでよー 俺をどーこーしよーなんて考えない方がいいぜ。能面みたいに表情なくて、平気で人刺しちゃうようなのがいっぱい来ちゃいますですヨ、ハイ」

なんて微妙にトーンが変わりつつも、(`・ω・´)みたいな顔で歩いてました。

すれ違います。

  

何にも起きません。

  

ホッ…━━(´・ω・`)━━

(-ι- ) クックック やっぱり連中には能面みたいな無表情の東洋人は不気味なんだろーなー あーよかった、と日本から仲間を連れてくる必要のなくなった私は、スキップしながら帰ろうとしますと、突然、うしろから

  

「Sir~」

 

という声が聞こえました。

気にせずスキップします。

また

  

「Sir~~」

  

と、今度はさっきよりちょい大きくなったような声が聞こえてきます。

それでもまさか自分のこととは思ってない私は、スキップの足取りを心持ち早くしたりしてますと、

  

「Sir~~~!!」

  

と、!!をふたつもつけちゃって叫んでます。

恐る恐る振り返ってみると、さっきのにいちゃんふたり組が

  

ε=ε=ε=ε=ε=(ノ`∇´)ノ

みたいに追っかけてくんじゃねーかああああああ

  

もう反射的に逃げましたよ。

一応、私は添乗員ですからスーツにネクタイなわけで、クツも革靴です。

んで、添乗員御用達のビジネスバッグを肩から下げてますんで、そんなに速くスキップはできませんヾ(^^; マダスキップシテンノ

それでも逃げます。

  

「Sir~~」

って、だんだん声がでかくなってくんじゃねーかー!

ヒイイ ε=ε=ε=ε=ε=┏(゚ロ゚;)┛

   

「Sir~~」

ヒイイイイ ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘ イ、イロマデツイテルー(笑)

  

「Sir~~」

ヒイイイイイ └( ̄◇ ̄;)┐=3=3=3=3=3=3  って、戻ってどーする(爆)

   

「Sir~~」

ε=ε=ε=┌(;*´Д`)ノ も、もーだめだー…

 

限界です。

日頃の暴飲暴食 and 運動不足をいかんなく発揮した私は、乱れがちなスキップに狼狽しつつも、ヾ(^^; ダカラネ… 一生懸命逃げたのですが、

   

「Sir~~」

す、すぐうしろにいるぅぅ ヽ(ヽ>ω<)ヒイィィィ

  

でも、もーだめです。これ以上スキップできません。

気持ちばっかりあせっちゃうんですけど、どーにもこーにも足が動きません。

   

そしたらね、その兄ちゃんたちね、

俺の脇をゲラゲラ笑いながら走り抜けちゃいましてね(爆)

振り向きざまになんか言ったみたいなんですが、なんだかわかりませんでした。

そんで、そいつらそのまんま だー と走って、どっかに行っちゃいました。

(:.;゚;Д;゚;.:)ハァハァ い、いったい何だったんだ…

   

答えは簡単。

ただ、からかわれてただけなんですね。

(爆)

   

だって、私のこと通り過ぎてから、またどっかで待ち伏せしてたとか、そんなことはなかったしね。

とっつかまえようと思ったら、かるぅくとっつかまってましたよ。

それにしても、じゅーぶん恐かったし、もう一年分ぐらい走り溜めした感じでした。

( ´Д`) < はぁー…

  

  

  

巻之三●天空の城

いきなり舞台が変わって、中国三峡くだりです。

三峡くだりは言うまでもなく、長江(揚子江)を客船でくだっていくわけですが、たいてい夜間は航行禁止になってます。

ですので、どっかの港に上陸して夜の街の散策に案内したりすることもありますが、寝るのは船内なんですね。

一時期、三峡くだりのツアーに連続して添乗してことがありまして、いつも同じ船を使いますので、けっこうクルーたちとも顔なじみになり、仲良くなりました。

   

ある日の夜。

船は巫山という街でストップ。

ここで今日のクルーズはおしまいです。

  

夕食後、船内のロビーにいたら、仲良くなったクルーが

「お前、これから何か予定あるか?」

みたいに聞いてきます。

「別にないよ」

「俺たち、これから巫山の街に行くんだけどさー ここはすげーおもしろいとこなんだよ。お前も行かないか?」

「どんなふうにおもしろいの?」

「まぁそれは自分の目で見てくれよ」

話しを聞いたら 2 時間ほどで船に戻ってくる、ということなのでお客さんの幹事さんに、

「ちょっと打ち合わせがありますので、 2 時間ほど部屋を空けます」←こんなんばっかり

と断り、そいつらと巫山の街へでかけました。

  

真っ暗です。

街灯もありません。

埠頭から街中に入るまでの急な石段を登り、石造りのゲートをくぐり、やっと街に入りましたが、山の中を切り開いたような街で、やたらと石段があります。

電気はもちろん来ているのでしょうが、全然足りてないのですかね、そこらの屋台なんかは、みんなガソリン駆動の発電器をまわして電気を取ってるみたいです。

街全体が石でできてるようなところで、しかも建物の軒先がのしかかるようにはみ出してるんで、圧倒されるというか、

┗( ̄□ ̄||)┛お、重い… というか…

  

皆さんは≪天空の城・ラピュタ≫というアニメーションを見たことがありますでしょうか。

うちの子供たちと一緒に見てたところ、冒頭で、がたがたの家並みの間を縫うように走る木製トロッコが疾走するシーンがあります。

そのシーンを初めて見た時、

「こ、こりゃぁ巫山だ…」

と思ってしまいました。

家と家の間隔の狭さとか、高い山並みに囲まれて押しつぶされそうな街並とか、ラピュタに登場する家は木の家がほとんどでしたが、これを石造りに代えたら、まさに巫山です。

  

な、なんか、すげーとこだな…

きょろきょろしながら、クルーの後についていきます。

すると、あるビル… っつうか、相当ガタが来てるコンクリートの箱… というか、今ではほとんど見られなくなったガタガタの雑居ビルって感じですかね、そんなところに入っていきました。

階段なんかも真っ暗です。

「ちょ、ちょっとさー なんなんだよー ここよー」

「なんだお前、びびってんのかー ケーッケッケッケ」

いや、あのね… びびるとか、そーゆーことではなく、ここはなんですか? っていうことをお伺いしたいんですけろ…

   

鉄製の格子戸をがらがらがらと開けると、ほのかな明かりの中にソファーとはテーブルが並んでました。

んで、 50 代ぐらいのばーさんがカウンターの中にいます。

カウンターにはウイスキーやら何やらの酒瓶が並んでました。

なんだー 飲み屋かよー ったく、こんなとこまで連れてきやがってよー

店のばばーとクルーは、なにやら方言丸出しでしゃべってます。

かなりきつい方言で、私にはさっぱりわかりませんでした、というより、聞く気もなく、ただブツブツ言いながら飲んでたんですけどね。

  

いい加減酔いもまわってきたころ、クルーの一人が立ち上がってばばーと二言三言話した後で、別室のドアへ消えていきました。

特に気にせず、飲み続けます。

と、

「お前もあの部屋に入ってみな」

「何があんだよ、あの部屋によー」

「まぁ入ればわかるって。ここのマスター(あのばばーのことか?)には話しつけてあるから大丈夫だよ。俺たちゃ、まだ当分ここで飲んでるから、ちゃんと船には帰してやっから」

( ・ω・)?

何が何だかよくわかりませんが、とにかくその部屋に入ってみることにしました。

  

かちゃ

中にはソファーとかテーブルがおいてあり、女の子が 5 ~ 6 人座っていました。

( ・ω・)??

女の子が私に近寄り、

「ねぇ、どの子にすんの?」

って、

  

置屋かよーーーーーーーー

(爆)

   

そうか、そーゆーことだったのか…

いーよー 別に遊ぶ気もないっすよー

で、よく見たら、あ、けっこうかわいい子いんじゃん…(爆)

   

こーゆー場合、問題はいろいろありまして、どこまで 【遊べる】 のか、どこで致すのか、いくらかかるのか? とか。

さらに、まさか美人局じゃないだろーなー とか いきなり公安に踏み込まれたりしないだろーなー という不安もあったりしますが、クルーたちは何度も遊んでるみたいだし、マスターには話しつけてある、って言ってたし、まぁそんな悪いようにはならんだろう。

  

酔った勢いもあり、私は

「んじゃ、そこの子ぉぉ~」

みたいに決めてしまいましたヾ(^^; アンタネ…

  

私が指名したその子は、立ち上がると私の手を取り、その部屋からさらに別室に連れて行きました。

コンクリートむき出しのその部屋には病院のそれのような、無骨な金属製のベッドが置かれており、その上にはぺらぺらの布団が敷かれていました。

な、なんか苦笑…

  

その子は部屋の隅の冷蔵庫からビールを出すと、私についでくれました。

んで、ビールなど飲みつついろいろ話しをしたのですが、けっこう巫山にはこの手の店が多いようで、あちこちにあるんだそうです。

もちろん地元の○クザ屋さんたちとも関係はあるのでしょうが、店同士で客を取り合うとか、そんなことはなく、けっこう平和に共存している、と。

わりと話しが理路整然としているので、トシを聞いてみたら 23 ~ 24 とか言ってましたかねー

  

で、いよいよ始めようかと、話題の転換を図ろうとしたまさにその時!

かちゃ

ノックもなくドアが開いて、一人の男が入ってきました。

  

ΣΣ(゚д゚lll) げげ

   

思わず固まる私。

すると、その男はやはり冷蔵庫からビールを出すと、傍らのイスに座って飲み始めました。

な、なんなんでしょーか、いったい…

そいつは別に私らのことを気にする風もなく、ビール飲んだりタバコ吸ったりしてます。

「あ、あのさー か、彼はなに?」

と女の子に聞きますと、

「あー 私の彼氏」

    

  

   

   

  

(爆)

   

  

  

  

   

な、なんだとーーーーーーー

お、お前ら、ななな、何かんがえてんだー んで、その彼氏っつうのは、どーすんだ、こいつは? このまま、ここでビール飲んでんのか、飲んだら行っちまうのか、それとも飲んだら、さささ、 3P ですかーい(笑)

  

あまりのことに、すっかり正気を失った私は、何が何だかわからなくなってきました。

置屋と思ったのは、俺の勘違いなのか?

だけど、このシチュエーションはどー見ても置屋だよなー

でも、この子の彼氏が、ここにいるって、それは一体どーゆーことなんですくわ。

   

全然判断がつかなくなった私は、もはやビールを飲むしかありません。

女の子も最初のうちはついでくれましたが、 1 本あけ、 2 本めも空くころになると、なんか不思議そうな顔して私のこと見てます。

   

「ねー お友達待ってるんでしょ? 早くしないと時間遅くなっちゃうよ」

「はい?」

「どーすんの?」

「どーするって言いますと…?」

「やるなら早くやろーよー」

って、露骨な表現ごめんなさい。でも、ほんとにそー言ったんです。

   

「やるってったってさー だだだ、だって彼氏が…」

「あー 別に気にしないでいーから」

「いいい、いや、そんなこと言われましても…」

  

で、よくよく話しを聞いてみますと、なんか最近、この手の女の子と客のトラブルがあって、怒り心頭に発した客が、女の子のことボコボコにしちゃったらしーんですね。

んで、恐いんで用心棒っつうことで、男を置いとく、と。

部屋の外だと、カギかけられたら入れないんで、同じ部屋の中にいるそうです。

んで、んで、女の子がこーゆー仕事をする、というのはふたりの了解事項なんで、別に普通にコトを致す限りは、男も手出しはしない、と。

   

わたしゃ、もう開いた口がふさがりませんでした。

了解事項だか何だか知らねーが、いくら何でも彼氏が見てる前でできるかい!

    

すっかり酔いも醒め果てた私は、

「もー帰る」

「あらー いーのぉ?」

「いー。帰る」

「こーゆー場合、お金はどーすんのかなー」

「俺の連れがいただろ、そいつらから取れ」

「んじゃ、そーするわ ばいばーい」

   

で、さっきの飲んでた部屋に戻ると、だーれもいません(笑)

ばーさんに聞いてみたら、

「みんなそれぞれ楽しんでるよ。どーだった、あの子は?」

「うるせー(泣) 俺は先に帰るって、あいつらに言っといてちょーだい」

私はさんざん迷いつつも、来た道をたどり船に帰ってフテ寝しました(笑)

    

翌朝。

そいつらから、なんだお前、先に帰っちゃうから心配したぜー みたいなことを言われました。

「おめーら ふざけんじゃねーよー 夕べは、あんなんで、こんなんで…」

と顛末を話しましたら、

   

ぎゃははははははははははははははははは _(;_ _)ノ彡☆バンバン!

   

と全員が大笑い。

女の子が殴られたというのはたまに聞く話だけど、いくら何でも彼氏を部屋に入れる女がいるか、っつうの。

とか言われて、

「よっぽどお前とはしたくなかったんだなー その子(笑)」

ななな、なんだとー

なんだよー なんだよー まさかこんな目に遭うとは思わなかったじょー

「でもまー そうやって相手を選んでるようじゃぁ商売女としては失格だよな。だからくよくよすんなよ。またどっか連れてってやっから」

って、あのー それって全然なぐさめにも何にもなってないんですが…

   

ちなみに、これとよく似た話はもう一回経験してます。

って、そんな風に書くと、

「おまえ、添乗中にそんなことばっかりやってんのか」

とか言われそうですが、そそそ、そんなことはないです。

  

んで、 【よく似た話】 なんですが、これはちょっとまずい話なんですよね。

香港に出張(添乗ぢゃないよ (^^)b )に行った時、出張先のマネージャーと飲みに行きました。

それも香港ではなく、香港に隣接する中国領・深[土川](しんせん)に行ったんです。

   

ちなみに、この深[土川](しんせん)の [土川] の字は、土偏に川と書きます。

日本の国字にそんな字はありませんので、[土川]と書くことにします。

ですので、深[土川]と書かれていたら 【しんせん】 と読んでくださいね。

  

で、この深[土川]という街は、ここ 10 年ぐらいの間に爆発的に発展したところで、高層ビルがにょきにょき建ち、おもしろおかしい怪しい店もたくさんあります。

けっこう香港人たちは気楽に深[土川]に遊びにいきます。

  

一昔前まで、香港人同士の間で

「命の洗濯をしてきたよ」

とかいうと、それはマカオのカジノで遊んできたことを意味してました。

しかしこのころの香港人がそう言うと、それは文字通り

「深[土川]で遊んできた」

っつう、意味になるんですね。

   

で、その日はマネージャーと深[土川]のカラオケボックスに行きました。

中国の場合、カラオケボックスといっても、一般的にはかなり広い個室で、たいてい女の子が同伴します。

女の子によってはかなりきわどいサービスをする子もいるようで、まぁカラオケボックスとキャバクラがくっついたようなもんですね。

すでに香港で一杯飲っていた我々ですが、またそこでもぐびぐび飲みます。

それにしても、私の知り合いって、私以上にぐびぐび飲む奴が多くて、ほんとに愉快ですわ(笑)

  

そこの店の社長とマネージャーは友達だそうで、私にも紹介してくれましたが、非常に仲がよさそうです。

私たちはふたりなのに、女の子は 10 人ぐらいいます。

全然バランスが取れてません(笑)

  

ひとしきり飲んで歌って騒いだあと、店の社長が

「お持ち帰りもできまっせ。お客さん」

  

別に言い訳はしません。

持ち帰ることにしました(爆)

   

だけど、私のホテルは香港だし、当時、香港はまだ中国に返還されてなかったので、中国領の深[土川]から女の子を香港に連れ帰ることはできません。

ところが用意周到というか、見抜かれてると言うか、ちゃんと場所が用意されてるそうです。

しかも店からそこまで専用車での送り迎え付き(笑)

 

で、行ったんですが、問題はその連れて行かれた場所なんですよね。

私は車が入っていこうとした建物に書かれた看板を見て、自分の眼を疑いました。

   

それはさすがにここでは書けません。

   

だって、中国の要人がここを読んだら絶対に国際問題になっちゃうもん。

って、読むわけもないのですが(しかも日本語サイトだし・爆)、さすがの私も度肝を抜かれました。

  

「ここが一番安全ですよ、お客さん」

と運ちゃんは言いますけど、たしかにそうなんでしょうが、これを日本に置き換えて考えてみた場合、いかにすごいところに連れて行かれたのかがわかります。

ですんで、この辺はもしオフ会ででもお会いすることができたら、オフレコで暴露したいと思います。

  

んで、まー びくびくしながらも納得し(笑)、そそくさと部屋に入ったわけなんですが、ふと気になりました。

「ねー アレ持ってるよね」

「アレ?」

「そー アレ」

「何がアレ?」

って、一向に話が進みません。

ス○ンだよ、ス○ン(爆)

  

「あー 私持ってきてないよー」

「えー ぢゃ、どーすんだよー 俺だってそんなの持ってないよ」

「私は別にナシでもいいけど」

   

(爆)

   

「おめーがよくてもなぁぁ… 俺がヤなんだよ!(魂)」

  

んで、結局、その子とまたビール飲んで、何にもしないで帰ってきました。

何か一晩中、ビール飲んだり、意味もなくドライブしてたみたいで、結局、こんなもんなんですね、

私の人生…(´;ω;`)

  

  

  

巻之四●徘徊

オマケです。

私じゃなく、私の親父の話です。

   

親父はずっと病院で働いていました。

医者ではありません。

病院の事務長です。

今のようにコンピュータなどなかった時代ですから、毎月末の保険請求の仕事は、それはそれは大変なもので、毎月のうち、 2 ~ 3 日は必ず徹夜してましたね。

  

私も高校生ぐらいの時に、アルバイトに行ったことがあります。

通常の診療が終わってからの作業ですから、当然徹夜になってしまうわけで、その時、深夜の病院というのは薄気味悪いとこだなぁと実感しました。

  

この話しは親父が徹夜で保険請求の仕事をしていた時のことです。

ある冬の日、あるアル中のおっさんが入院してきました。

もう口もろくにきけず、痴呆もいくらか入っていたようでして、入院といっても、本当に入院する先の病院のベッドが開かず、とりあえず今日だけ 【泊めてやってくれ】 みたいな、そんな感じであったようです。

  

深夜。

親父は本日の徹夜担当者 M さんと仕事をしつつも、

「今日入院してきた人、何だか薄気味悪いな」

「そうですね~」

みたいな話しをしていました。

  

そして M さんがストーブに石油を入れようと、階段の下に作られた収納庫に石油タンクを持っていきました。

薄暗い明かりの中で、しゅこしゅこ石油を入れてますと、ふと視線を感じたそうです。

あたりには自分一人しかいないし、深夜なので入院患者も全員眠っているはずだ…

きょろきょろ見渡してみても、やっぱり誰もいません。

気のせいかと思い、またしゅこしゅこ石油を入れ、ふと階段を見上げると、

そのおっさんが階段の途中で、にやにや笑いながら、その人のことを見下ろしていました。

   

深夜の静まりかえった病院内で、足音も立てないで階段を下りていた…

裸足だったんだろ?

違います。

おっさんは階段の途中で立ち止まっており、 M さんの目線とおっさんの足もとがちょうど同じぐらいだったそうで、スリッパを履いていたのが見えたそうです。

スリッパ履いて階段おりたら、ぺったんぺったん って音がしますよね。

ところがまったくの無音状態。

M さんは思わず、ぞおおぉぉっとしたらしいのですが、職務上、

「どうしました? ちゃんと寝てなきゃダメですよ」

と、おっさんをベッドに連れ戻しました。

   

事務局に戻ってから、親父に

「事務長ぉぉ さっき、例の人が…」

と話したそうですが、その時親父は大して気にもとめず、

「ふ~ん」

程度の反応でした。

仕事に戻ります。

    

「事務長ぉぉ でも、どう考えてもおかしいですよね」

「うん…」

「絶対変ですよ、だってあの人、ひとりじゃほとんど歩けないような人じゃないですか…」

「ああ…」

「それなのに、なんで…」

「うるさい。いいから仕事しろ」

「はぁい」

    

再び仕事に集中し、ペンを走らせる音だけがしていた事務局の中で、突然ブザーが鳴り、患者の異変を知らせるランプが点滅しました。

見ると、例のおっさんの部屋です。

   

「お前、ちょっと行ってこい」

「え゛…  か、かんべんしてください。事務長行ってくださいよぉ…」

「なんだ、お前。子供じゃないんだから、早く行って来い」

「かんべんしてください」

「ったく、しょがーねーなー」

   

親父はぶつぶつ言いながらも早足で病室に向かいました。

ノックをして病室に入ると、おっさんはベッドの上に座っていました。

「どうしました?」

おっさんはトイレに行きたかったそうです。

親父は内心 「トイレぐらいで呼ばないでくれよ…」 と思いつつも、一人ではまともに歩けないおっさんに手を貸し、トイレまで連れて行きました。

トイレのドアを閉め、親父はドアを正面にして、向かい側の壁に背中をあずけ、廊下に立って待っていました。

   

出てきません。

いくら待っても、おっさんはトイレから出てきません。

   

倒れてるのか?

でも、そんな物音はしなかったし、しかし、しゃがんだまま気を失っているのかも知れない。

そう思った親父はドアを開けて中に入りました。

誰もいなかったそうです。

個室もすべてドアは開けられており、もちろん中には誰もいません。

  

( ・ω・)モニュ?  ヾ(^^;キンパクカンガ…

 

窓から出ていってしまったか?

しかし皆さんの期待通り、窓は閉じており、カギまでかかっていました。

  

( ・ω・ )ムニュ?  ヾ(^^;ダ、ダカラネ…

 

いなくなってしまった(笑)

さすがにあせった親父は、まず病室がある二階を探しました。

すべての部屋のドアを開け、熟睡している入院患者もひとりひとり確かめ、手術室や、れれれ、霊安室などもすべて見ましたが、いません…

   

一階におります。

診察室や待合室、調理室といったふうに、順番にドアを開けますが、

いません…

   

あせりまくった親父が、事務局まで戻ってきた時。

当時の事務局は、病院自体が小さいところでしたので、待合室などの全体が見渡せるように、前面ガラス張りでした。

廊下のほのぐらい明かりの向こうに、そこだけ煌々と明かりがつけられた事務局が見えます。

親父は急いで事務局に戻り、その気配を中にいた M さんが感じて顔をあげ、親父を見た瞬間。

  

M さんの顔がゆがみ、ひきつりました。

「じ、じ、事務長ぉぉ う、うしろ…」

思わず振り返った親父の顔のすぐそばに、

そのおっさんの顔がありました。

  

「うわ!」

  

おっさんは親父に張り付くように、ぴったりと体を合わせていたそうです。

その眼は潤んでおり、半分開けた口からよだれが糸をひいていました。

我に返った親父は、それでも職業意識を取り戻し、トイレに行ったのか、うしろに張り付いてちゃびっくりするからやめてくれ、と諭し、また病室まで連れ帰りました。

   

ちなみに…

うちの親父は、すげークソ度胸の持ち主です。

【恐怖】 という感覚は、どっかに置き忘れちまったみたいで、特に、この手のモノにはまったく動じません。

今はトシも取り、だいぶ涙もろくなったりしましたが、それでも 【この手のモノ】 に対する免疫というか、無神経というか、とにかく全然動じません。

   

事務局に戻った親父の話しを聞いて、 M さんは冷静に考えてみたそうで、事務長はドアの前に立っていたのだから、そのおっさんが出てくるのを気づかないわけがない。

そして、事務長はそのままトイレに入って中を見たが、誰もいなかった。

いったい、このおっさんはいつ、どうやって、トイレから出て、事務長の背中にへばりついていたのか…

  

そして真夜中の病院の、ほのかなあかりの中でおっさんを探す親父の姿を想像してみました。

ひとつひとつドアを開け、探している親父のうしろにへばりつくように、当の本人がいる。

しかも親父の歩調に合わせているかのように、ぴったりと影のようにはりついている。

M さんはその二人の姿を想像するにつれ、恐怖が首をもたげ、しかもこちらに向かってくる親父のうしろにへばりついているおっさんの姿を、実際見ているわけですから、ますます恐怖を覚えたそうです。

  

んで、当の親父なんですが…

「ったくよー ぴったりうしろにいやがるから、驚いたよ かんらからから」

と、全然気にしてないよーす。

  

さ、さすがです…

   

「いやぁ~ 君のおとーさんのクソ度胸っつうか、不感症には、まったく恐れ入ったよ」

とは、後日、この話しをしてくれた M さんが私に言ったことばです。

そ、その通りです(笑)

   

もう M さんは仕事どころじゃなかったそうですが、親父は相変わらずの様子で仕事をしてますので、いつまでも震えているわけにもいかず、仕事を続けました。

 

そして、またふたりが仕事に没頭し始めた時

  

ぴし

   

と事務局のガラスが音をたてました。

ふと見上げたふたりの眼に飛び込んできたものは…

  

 

  

  

ヤモリのように両手を大きく挙げて、ぴったりとガラスに張り付き、しかも顔の片面をガラスも割れんばかりに押しつけ異様な表情となったおっさんの姿でした。

   

「うわあああああああああああ」

   

と悲鳴を上げたのはもちろん M さんと…

親父も悲鳴をあげたそうです(笑) サ、サスガニ…

    

おっさんはますます強く体をガラスに押しつけてきます。

おっさんの顔はますますゆがみ、ガラスをぶち抜んばかりでした。

もう M さんは声も出なかったそうですが、

あっ!

という間に我に返った親父(さすがです)は、おっさんを引き剥がし、脈をとり、瞳孔を見ました(さ、さすがです)。

ちょっとアブナイ状態だったそうで、すぐに別棟で当直している医師を呼び、救急手当を施しました。

まぁ一命はとりとめ、ほんとに一泊だけして翌日は別の病院に移っていったそうです。

  

この話しには後日談がありまして、当時、私の家のそばにちょっとした規模のお寺がありまして、よく縁日なんかには屋台が出たりしたんです。

ある縁日の日に、親父がぶらぶら散歩してましたら、そのおっさんがたこ焼き焼いてたそうです(笑)

んで、親父の顔見て、にやっと笑ったとか…(爆)

オマケのつもりだったんですが、えらい長くなってしまいました…

  

おしまい