前にも書きましたが、彼はワタシのもっとも大切なビジネスパートナーであり、仕事仲間では唯一尊敬している人物です。
その席上にて彼曰く。
「知ってる? 日中旅行社、倒産したんだヨ」
「エ…!?」
日中旅行社とは、日本に数社ある中国専業旅行社の草分け的存在であり、ワタシら中国旅行に携わる者には、一種あこがれのような存在でした。
「なんで、日中がツブれちゃったの…?」
「さぁ… 詳しくは知らないけど…」
家に戻り、さっそく 日中旅行社のサイト を見てみると…
「あらまぁ…」
今、日本の旅行業界はある意味、岐路に立たされていると思います。
航空券自由化をはじめ、もともと平和産業という脆弱な基盤の元にたつ旅行業界は、その収益構造自体にしても浮き草的色彩が強いんですよネ。
ドコとは言いませんが、ハデな広告を繰り広げている某社を代表とする、いわゆる 「安売り屋」
ワタシは 「安売り」 自体は、決して悪いコトだとは思っていません。
誰でもいいモノを安く買いたいと思っているし、それを提供することが企業の大事な役割でもあると思っています。
しかし、安いモノには安い理由があり、高いモノには高い理由があります。
新聞の全面広告に載っている海外旅行の広告などを見て、不思議に思ったコトはありませんか?
だって、旅行代金全額の方が航空運賃より安いんだもんネ(笑)
旅行とは在庫を持っているワケでもなく、物流に関わる部分もごく少ない。
いわゆる 「価格破壊」 とは、こうした在庫面での改善、そして物流面でのムダを省いたりして実現できるもので、それがさほどない旅行業界の場合、何かを犠牲にしなければこうした激安価格は成立しません。
もっとも国際線航空運賃ひとつにしても、複雑怪奇であり、とても一般の皆さんには理解できない代物。
なので旅行会社の国際線航空券の発券は 「職人芸」 とも言われちょります(笑)
「正規運賃」 と言っても、多種多様であり、 「ペックス運賃」 などは、ワタシに言わせれば官庁主導型のカルテルじゃないかと思ってるんですが…(笑)
ちなみに航空運賃については、詳しくは書きません。 「よい子はマネしちゃダメだヨ」 とただし書きが必要になっちゃうから(笑) |
こうやって仕入れ値を下げたとしても、それには自ずから限界があり、なおドコにツケを持っていくかと言えば、それは現地の手配先です。
「このシリーズは 1 本あたり xxxxx 円でやってください」
「え゛…! 無理です、これじゃウチは赤字になっちゃいますです…」
「それなら他の手配先に頼むからいいです。長い間、お世話になりました」
「ちょ、ちょっと、ちょっと… わかりましたヨ、やりますヨ…(泣)」
まぁこうした光景はどこの業界でも見られるものなのかも知れませんが、こうやって現地を叩き、値を下げさせ、そして極めつけは
代金を送金しない
(爆)
いや、サギじゃないんですヨ。
代金は国際送金で、ちゃぁ~んと送金するんですが、それが為替レートのいい時を狙うんで、早くて数週間、長いと一年後というのもザラだそうで。
日本側はいいですよネ、それでも。
しかし現地側にしてみれば、それは実質上 「目減り」 してるワケで、まさに泣きっ面に蜂です。
現地側もこうやって無理してでも日本からの受注は受けます。
なぜなら、実績がほしいから。
そうやって実績を示さないと、ホテルの部屋の仕入れとかバスの配車とか、そうしたパーツの部分で今後影響が出ることは必至。
しかしツアー単体で見た場合には、もう大赤字なワケで、なんとかしてそれを埋めなきゃならん。
かなり前は香港や台湾あたりでよく見られた光景ですが、激安ツアーの客をショッピングに連れて行こうとしたら、一部の客が
「オレは買うものはなにもない。集合時間に戻ってくるから、オレは自由行動する」
というと、現地ガイドが
「それじゃ、今晩はホテルに泊まらないでください」
(爆)
土産物屋の KB でホテル代を賄っていたワケですネ。
さすがに今は、ここまで極端じゃないけど、しかし基本的な構造はさほど変わってないみたいっす。
中国ではもっとヒドいコトが現地手配先と現地ガイドとの間で行われてますが、まぁそれは業界秘密でもあるんで書きません(笑)
って、何でオレはこんなコト書いてるんダ…?(笑)
そうそう、日中旅行社の倒産だっけ…
この会社はかなり早い時期から日本からの訪中団を積極的に組織し、送っていた会社なんですネ。
昔、ワタシがいた会社もそうした専業旅行社のひとつで、そこでやっていた仕事は今よりも数倍おもしろかった。
「仕事がおもしろい」 と肌で感じた時期でもありました。
結局、そうした会社も 「激安ツアー」 の波に押され、立ちゆかなくなったというコトなんでしょうが、
「経営の失敗」
「戦略の甘さ」
などなど、糾弾されるコトはたくさんあるでしょう。
経営陣も 「敗戦の将は兵を語らず」 で、こうした糾弾を一手に受けなきゃいけません。
理由がどうであれ、結果がすべてであるワケだから。
でもですネ…
こうした老舗が、経営が立ちゆかなくなり自らの幕を引かねばならんところに、一抹の理不尽さと寂しさを感じるワケです。
「時代が変わったんだネェ…」
「そうだネェ…」
同じ時代を生きてきたワタシと彼は、新橋の飲み屋の一角で深いため息をつくのであった。