Zure Zure 日記

瑣末な日常を Zure た視線でやぶにらみ

Eat it!

添乗員をやってますと、いろいろなところに行かされるのはもちろん、いろんなもんを食べさせられます。

「食べられる」 ではなく、 「食べさせられる」 んですね。

どういうことかと言いますと、私が主戦場としていた中国の場合、朝昼晩とお客さんと一緒に食事をすることが多く、運ばれてくる料理を説明したりとかするわけで、まぁこの仕事を始めてから、こうした料理関係の中国語はたくさん覚えました。

料理の名前はもちろん、食材とか調理方法とか。



普通の食事の場合、だいたいは普通の日本人でも察しがつくものが多く、そんなのは説明もいらないわけですけど、一見、何の材料を使っているのかわからないものや、一体どんな味がするんだろう… とかいうのも多く、そういう時に店のお姉ちゃんなんかに、この料理の正体を聞いて、それをお客さんに説明する、と。

で、大体のお客さんは

「ふぅ~ん」

とか、

「へぇ~」

みたいに感心し、んで、



「ねぇ、添乗員さん、どんな味がするか、ちょっと食べてみてヨ」



と、こーなるわけですネ。



お客さんに言われるまでもなく、自分から食べたい料理もたくさんありますけど、そういう料理はたいていお客さんも食べたいわけで、第一そんなんだったら添乗員が毒味役をさせられることもありません。

何が何だかわからない料理、あるいは食材の正体があまりにはっきりくっきりしてて、とても食べる勇気が出ない料理など、まぁそんなモンを毒味させられるわけです。

ここでは、そうやって 食べさせられた 料理の数々をいってみたいと思います。



You alright?

Here We go!

(笑)



その 1 ◆ とってもおいしかったもの

北京ダック
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言わずとしれた北京の名物料理。

鴨を首だけ出して地面に埋めて、金具で無理矢理口を開けさせて高カロリーのエサをがんがん詰め込みます。

ちなみに、日本で言う 「詰め込み教育」 を中国語では 「北京ダック式教育」 と言います。

さすがに子供を地面に埋めたりはしていないわけですケド、まぁ言い得て妙ですな。



こうやって一切の運動をさせられず、鴨はどんどん太っていくわけで、当然にして肉も、ワタシの腹のようにぷるぷるの柔らかさになります。

ほどよく肥えたところで、地面から掘り出し、熱く焼けた鉄板の上に追い込みます。

「あちあちあちあち」

みたいに足をばたばたさせるわけですが、当然にして逃げられるわけもなく、足が焼けてきます。

頃合を見て、鉄板から解放し、んでしめます。



かなり残酷な話ですが、

「二本足の動物で食べないものは自分の親だけ」

と、豪語する中国人のこと。

こんなこたー 屁でもねーわけですね。



しめた後は、焼けた足を切り落とし、これは前菜になるわけです。

つまり水カキの姿焼きというか、まぁそんなんができあがるワケ。



この前菜が出る席は、北京ダックの宴会でも高級な部類に入る、いわゆる 「全鴨席」 というやつで、読んで字のごとく、鴨のすべてを喰っちまいます。

心臓のカラ揚げとか、各種モツ系料理、脊髄のスープ、などなど。



モツ系の料理は、日本でもその手の店に行けば食べられますけど、脊髄のスープなんてのは日本でも食べられるんですかね。

白濁色のポタージュみたいな感じで、意外にあっさりしてますが、飲み過ぎるとちょっと胸やけしたような感じになります。

普通は小さいお碗で飲むんですが、これで正解です。



で、あれやこれやしているうちに、北京ダックさんが焼き立ての香ばしいかおりとともに、その黄金の姿をテカらせ、ご登場遊ばします。

まず調理人が、テーブルの脇でダックを

「ほら、こんなに上手に焼けましたぜ」

と、見せますので、

「よっしゃ、よっしゃ」

みたいに重々しくうなづくと、いったんダックは下げられ、今度は切り分け用のワゴンに乗って再登場します。

これでさくっさくっと皮の部分をそぎ落とし、それを薄く焼いたクレープ状の皮に甘みそとネギをはさんで、くるくる巻いて食べるわけですが、その前に、大事なセレモニーがあるっす。



こんがり焼けたダックさんの脳を食すわけですね。

頭の部分は、ぱかっと割られています。

んで、ピーナツぐらいの脳があるわけですが、これを本日の主賓と招いた主人とで、分けて食べるんですね。

ワタシも食べたことがありますが、ん~… 格別の感想はないです(笑)

うまいとか、まずいとか言うものぢゃないですしネ。



で、本来は肉は食べません。

このまま捨てちまいます。

しかし、わざわざ太らせた鴨の肉を捨ててしまうのももったいない話なので、ワタシなどはそれも何かと一緒に炒めてくれ、と頼み、一品作ってもらいます。

この肉がまた柔らかくて、ジューシーでうまいんですワ。



今、ほとんどの団体ツアーでは、本末転倒して、肉がメインみたいになってます。

皮と肉が、すでに切り分けられた状態でテーブルに出されるんですが、皮はほんの少量、肉の方が多いです。

これはたくさんのお客さんをさばかなければならない、レストランの宿命みたいなもんですが、ホントは皮だけ食べるモンなんですよネ。

北京では全聚徳というレストランが、北京ダックの代名詞のようになってますが、ここよりもうまい店はけっこうあります。

いつか、北京にご一緒できたら、ご案内しますネ(笑)



鹿肉の串焼き
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これは中国の最北部、黒龍江省省都であるハルビンで食べました。

バーベキューのような、大型の金串に、どかんどかんと刺さってまして、思ったほどクセもなく、やわらかくてうまかったです。



昔、中国の大金持ちは山をいくつも持っていて、たくさんの鹿を放し飼いにしていたそうです。

んで、非常に大切なお客さんをもてなす時は、この山のひとつに火を放ち、丸ごと山を燃やしてしまう。

当然、そこにいる鹿たちも焼け死んでしまうわけですが、その中から、ちょうどいい焼け具合の鹿が必ずいて、それを食卓に出す、と。



そのような鹿は、どんなに腕のよい料理人もかなわないほどの絶妙の焼け加減で、それこそが最高のごちそうなんですね。

まぁ 「白髪三千丈」 のお国らしい、スケールの大きい料理ですが、これはあくまでも 「お話し」 として聞いておいた方がいいようです。



と、この他にもおいしいものは本当にたくさんあるんですが、ちょっと自慢みたいになっちゃいますので、この辺でやめときますです(笑)



その 2 ◆ よく言われる料理はウマイのか

「名物にウマイものなし」

とよく言われますけど、まぁケースバイケースであります。



例えば、有名な 「熊の手」

熊は左手を蜂の巣に突っ込み、蜜をなめるので、左手に蜜がしみこんでいる。

だから左手がウマイのだ。

みたいな話しもありますけど、これは眉ツバもんです。

そんなしみこむほど、蜜ばっかりなめてるわけぢゃないだろーしネ



実際の熊の手は、まず剛毛を丹念に毛抜きするところから始まります。

んで、挽き肉状態にして、それを熊の手のかたちにこねて、んで蒸し焼きにするんですね。

できあがったら上からタレをかけます。

つまりは、熊の肉を使ったハンバーグなわけです。

ゼラチン質が多いので、なんかぷるぷるしており、まぁ肉自体はウマイともマズイとも思いませんでした。

むしろ肉そのものよりも、上にかかっているタレ自体のデキに左右されるみたいです。



そういうのは、もうひとつあります。

高級料理の代名詞的存在。

フカヒレです。

これは一度天日にさらして、グルタミン酸やらイノシン酸といった、いわゆる 「うまみ成分」 をたぁ~っぷりと充満させたあと、 3 日ほど水にさらし、やわらかくしてから煮込むんですが、フカヒレ自体には味はありません。



これこそタレが命なわけです。

フカヒレの、ざくざくにょっきりした食感に合うように、濃厚なタレを作り、それを味わうんですね。

タレ自体は、フカヒレと合わさった時にのみ、その真価を発揮するわけなんで、よくありがちな 「フカヒレラーメン」 なんてのは、料理としては下の下、食い物としては論外でしょうな。

ちなみにフカヒレ三陸沖、あわびは五島列島、なまこは… え~っと、どこだっけなぁ… なまこが五島列島だったかな…



と、とにかくこの 3 つ。

中華料理では非常に高価な高級食材ですが、このように日本産のものが最高品質だと言われています。

その昔、この 3 つはいずれも俵に詰めて輸出されていたので、 「俵物」 と呼称されており、貴重な財政元だったようです。



その 3 ◆ 犬、ねこ、ヘビ

犬は、昔は日本でも喰ってましたよね。

赤犬がうまい、とか、そんな話を聞いたことがありませんか。

わたしゃ、これを学生時代に、中国のやはり東北部、瀋陽(しんよう)という街で食べました。



ぱっと見は、鳥のささみのような感じです。

ささみを、細くささがきにしたような。

で、これをゆでて、酢をかけて食べるんですね。

これはとってもうまかったなぁ

炭火の牛焼き肉と一緒に食べたんですけど、数人で食べにいって、がんがん喰って、ビールをリッター単位で飲んだような記憶があります。



ただ、普通、犬肉は鍋物にして食べます。

ショウガをよく効かせた味噌仕立ての鍋で食べるんですね。

これを食べると体がほかほかと暖まり、冬に食べるには最高だそうですが、この犬鍋は食べたことないんですよネ。

機会があれば食べてみたいと思ってるんですが、なかなかそんなチャンスに恵まれません。



で、猫ですけど、これは記憶が非常にあいまいで、たぶん野菜と一緒に炒め物にして食べたような記憶があるんですが、とんと覚えてません。

覚えていないということは、きっとたいしておいしくなかったんでしょう。



ヘビ

こいつは覚えてます(笑)

アメリカなんかだと、がらがらへびの缶詰とかがあるらしいですが、中国の場合はとろりとしたスープ、つまり羹(あつもの)にするわけですね。

でてきた羹の上に菊の花が乗ってたり、あるいは料理の名前に「龍」の字が入っていたりしたら、こりゃ間違いなくヘビです。

具としてはいろいろと入ってまして、タケノコとかキクラゲとか、えぇ~っと、あと、なんだっけなぁ~ ヽ(^^; 覚エテナイヂャン



味はねぇ~ ん~っとねぇ…

まぁ、ヘビの味はこんなんだよ、なんて言えないですヨ

だって、ヘビはヘビだし(笑)



このスープにも、かなり濃厚な味付けがなされており、黙って出されたら、ヘビは見ただけでもおぞましい、という人でもぱくぱく食べちゃいますヨ、きっと。

とは言え、やっぱりヘビはにおいやクセが強い、ということなんでしょうかね。

だから濃い味付けのスープやショウガとかニンニクを効かせるわけで、まぁ素材の味を活かすことを考える日本料理では、思いもつかない食材なんでしょう。



ちなみに、香港あたりでは、ヘビの肝酒というのがあるんだそうです。

まず生きてるヘビのしっぽをぐいっと踏みつけ、頭を ガシ! っとつかんで、一直線に伸ばします。

んで、肝のあたりをサワサワとさぐりあて、ナイフ一閃。

肝を取り出します。



これを白酒という、アルコール度数 50 度以上くらいの強烈な酒に入れるってぇ~っと、 しゅわしゅわしゅわしゅわ と泡立ち、無色透明だった白酒が緑色に変わる、と。

んで、これを一気に ぐい! と飲み干すわけです。

この一杯で、精力絶倫、驚天動地、七転八倒、翌朝横死というほどパワーが付くそうなんですが、これは飲んだことないです(笑)



で、犬、ねこ、ヘビの他にも、こんなのを食べました。



穿山甲
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せんざんこう、アルマジロであります。

「紅焼」 という中国独特の調理方法、敢えて言えば 「醤油煮込み」 という感じですが、そうやって食べました。

これは中国では有名な観光地である、桂林に、うちの会社の社長一行を案内した時に出しまして、けっこう、みなさん



「へぇ~ アルマジロねぇ」



とか言って食べてたんですが、終わってから社長に、

「ねぇ、どれがアルマジロだったの?」

とか聞かれ、お前を煮込んだろか、みたいに思いました(笑)



たぬき
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北京で食べたんですが、記憶が抜け落ちてます。

けっこう強烈な印象を与えそうな食い物ですから、覚えててもよさそうなもんですが、全然覚えてません(爆)

「たぬき 料理 中国」

みたいなキーワードで、 google ででも検索してみてください。



さそり
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これは割とポピュラーな食べ物です。

遼東半島勃海湾をはさんで対峙する山東半島あたりに、食用さそりの養殖場もあるらしいです。

で、これは空揚げにします。

ちょっと塩こしょうかなんかして食べますと、さくさくとした食感で、香ばしく、ちょうど小えびの空揚げと同じような感じですね。

ただはさみとかしっぽとか、そのまんまの形で出てきますので、ちょっとギョッとしますけど(笑)




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一見、ごま団子(笑)

あんこなんかを団子にして、油で揚げまして、それに蟻をまぶします。

よぉっ~く見ないと蟻とはわかりませんが、じっと凝視して蟻だとわかった時は、ぞっとしました。

だって、うじゃうじゃうじゃうじゃ蟻が、そのまんまの姿でこびり付いてるんだモン(笑)



ひつじ
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マトンですね。

日本でもジンギスカンとかで食べますけど、わたしゃ、ひつじ一頭まるごと食べました。

と言っても、一頭すべてを平らげたわけではなく、一頭分のすべてのパーツを食べるわけです。

これはシルクロードウルムチという街で食べました。

前にも北京ダックのフルコースを 「全鴨席」 と書きましたが、これは 「全羊席」 と言うっす。



んで、これはゆでただけです。

他になぁ~んの技巧も施されていません。

ただゆでてあるだけ。

マトンに弱い人は絶対食えないであろう逸品、ぢゃ、ぢゃなくて一品です。



ホカホカとゆでたての山盛り肉がどーんと出てきまして、これに塩をふりかけつつ、むしゃぶりつきます。

傍らには生にんにくが、これまた山盛りで出てきますので、こいつをがりがりかじりつつ、骨付き肉を喰らう、と。

んで、肉の他にも、何だか得体の知れないモンも混ざってまして、つまり心臓とか肝臓、肺、それから何とかとか、かんとかとか(笑)



肉はやわらかくて、とっても美味。

他のモツも、何だかワケわからんうちに喰っちまいますが、肺はまずかった(笑)

な、何と言いますか、ぷにぷに、と言うか、くにゅくにゅと言うか… 一口食べて、

「うげ」

って、なっちゃいました(笑)



その 4 ◆ 下半身

性器です ヽ(^^; 唐突ニ言ワナイ

一番有名なのは、鹿のペニスですかね。

「鹿鞭子」

と言いまして、漢方薬風のありがたい効能があるんですが、覚えてません。

こいつはスープの具にします。

形は、鳥肉の手羽元を食べた後の骨、みたいな(笑)

もっと先の方はとんがってるんですけどネ。

味?

忘れた(核爆)



比較的覚えているのは、豚の睾丸です。

これは台北で食べました。

薬膳と言いまして、その名の通り、漢方薬の原料を食材にしたコース料理なんですが、けっこうこの漢方薬の原料というのには、ギョッとするものも多いです。

まぁイモリの黒焼きとかはマンガでも出てきますが、本物はアジの開きみたいにぺったんこにされて、串で刺して広げてあります。



あるいは冬虫夏草

いわゆるキノコなんですが、クモとか蟻にとりついて、その虫さんたちを養分にして成長、そしてついには体を突き破って外に出てくるという、まるでエイリアンのような恐ろしいキノコです。

こんなものが食えるのか、と思われるでしょうが、スタミナ不足や過労、ぜん息、精力減退、生活習慣病、運動能力低下などに効果があると言われています。

極めて貴重なモノなので、中国から海外への輸出は原則禁止になっているみたいです。



で、まぁこの豚の睾丸ですが、ちょうどピーナッツチョコレートみたいな形をしてまして(笑)、薄いピンク色です。

どうやって調理されているのかは覚えてませんが、わりと

「そのまんま」

であろう形で出てきましたので、ゆでたとか、蒸しただけかも知れません。



味はまずかったです。

ぐにゅぐにゅしてて、何かもう濃厚な香りがしちゃって、一口食べただけで、こみ上げてくるモノがありました。

しかし添乗員たるもの、お客さんの前で醜態をさらすわけにはいきませんので、囚われの身でありながら、心は大宇宙を駆けめぐるがごとく、まぁつまり虚心状態でもぐもぐ食べたわけですね。



ごくん



お客さんの視線を一身に浴びます。

「どう?」

「ん~…」



ここで、

「いや、おいしかったですよ」

なんて間違っても言っちゃいけません。

だいたい美味しいとか、まずいとかというのは個人の主観なんですから、それを他人に聞くこと自体、意味のないことなんですけどね。

んで、あたりさわりのない言い方をします。



「ん~… ボクは大丈夫ですけど、まぁ皆さんも味わってみてくださいヨ」

「よぉ~っし」



んで、

「うげ」

「おいしいぢゃん」

「な、なんだこりゃぁ」

「だいじょぶだよネ」

「まず」



と、賛否両論ですが、不思議な事に、こーゆー場合、男性はたいていまずいと言い、女性はたいてい美味しいと答えます。



海外に出ても、男性は一見すぐに環境に順応しがちですが、決してそんなことはなく、いつまでも日本を引きずっていたりしてますが、女性は慣れるのに時間がかかることがあるものの、慣れちゃったら、んもー スゴイです。

添乗員のワタシが見ても、

「ス、スゲーな… このお客さん…」

と絶句しちゃうこともままありますからネ。



添乗員のワタシがいうのもナンですが、やっぱり海外に出たら、自分の楽しさを見つけてもらいたいと思います。

ナンでもかんでも添乗員やガイドに頼るのではなく、あそこに行ったらココを見てみよう、とか、この前テレビで見たあのレストランがステキだったから、食事してみたいなぁ、とか。

そういう前向きな目的を持っている人には、我々は一生懸命お手伝いします。

文字通り、寝る間を惜しんでやりますよ。



旅行はあくまでも自分で作るモンなんで、添乗員やガイドはそのお手伝いに過ぎないんですね。

って、あれ…

なんのハナシでしたっけ… ヽ(^^;

(笑)



その 5 ◆ も、もう二度とゴメンだヨ… (/_;)

こーゆーわけで、体を張って仕事しているワタシですが、非っっっ常おおおおに、抵抗があったモンがあります。



まだ駆け出しのころ。

時は冬。

都市は忘れましたが、どっか中国の東北の街です。

いつものように大皿に乗った料理がどんどん出てきまして、回転テーブルがくるくるまわってます。

と、そこへ、ミョーなものが運ばれてきました。



「ん?」

な、なんだろう…

ちょうど、うずらの玉子ぐらいの大きさで、真っ黒です。

あ、炒めてあるのか…

って言うか、黒焼きだなぁ、こりゃぁぁ…

で、よぉ~っく見てみると、うっすらと渦巻き模様みたいのが入ってます。



「ねぇ添乗員さん、これなに?」

「な、なんでしょーね ボクも初めて見ますねぇ。聞いてみましょう」

で、ウエイトレスのお姉ちゃんに、これ何? と聞きます。



「 Cang yong(ツァンヨン)」

「は?」

「 Cang yong を炒めたモンだよ」

「 Cang yong ってナニ?」

「ナニ? 言われてもなぁ…」



で、長々と説明を受けたワケで、お客さんもじっとワタシたちのやりとりをきいてます。

こんだけ説明されて、

「わかりません」

ぢゃすまないので、一生懸命聞きます。

でもわかりません。



一体、このお姉ちゃんはナニ言ってるんだろー

Cang yong って、なんだろー

テキトーにごまかしちゃおーかなー

でも、テキトーにすらも、そーぞーできないしなー



あー

あー

あー



あ?

あぁ?

あ!



も、もしかして…

「あ、あのー これはもしかしたら、●○で、△■を▲◇●して、●□▽したモンですかい?」

「そーそー その通り」

「げ」

「こ、これを喰わせられんの? 俺?」



「添乗員さん、わかった?」

「あ、ハイ…」

「なになに?」

「え、えっと、こ、これはですねぇ…」

「うんうん」



さあ、ここで問題です(爆)

この Cang yong とは一体、なんでしょーか?

1.牛の目玉の黒焼き

2.芋虫団子黒酢かけ

3.ねずみの胎児の姿焼き



ス、スイマセン。

書いてるワタシも気分が悪くなってきました ヽ(^^;

さぁ、正解はどれでしょう?



正解は

1.2.3.のどれでもありません(縛) ヽ(^^; 縛ッチャダメ



正解は



蚕のさなぎの黒焼きです。



え?

あんまりインパクトない?

ちょ、ちょっと前の例がキツ過ぎましたかネ。

(爆)



あぁぁ

こりゃぁ、確かによく見ると蚕のさなぎだわ

このうっすら渦巻きがそうだよね

これ、

食べなきゃイケナイんですか、σ(/_;) オレ…

 

ワタシは虫が苦手です。

さわれると言ったら、蚊を叩きつぶすぐらいで、ゴキブリなんか出ようもんなら、んもーほんとに大変です。

けど、へたにこわがろうものなら、子供たちが障子の影から、星飛雄馬のお姉ちゃんのごとくじっと見てますので、

「ナニが恐いんだよ、こんなモン」

みたいに堂々としてなきゃいけません。



んで、下手に逃がして、こっちに飛んでこようもんなら、んもー 子供たちが見てようが、女房が観察してよーが、

「きゃああああああああ」

とかで遁走しちゃうことは確実なんで、なるべく一発でしとめられるよう、丸めた新聞紙の狙いを定め、北斗神拳ケンシロウのごとく気配を消し去り、無念無想。



その切っ先は、鏡のごとく静かなる湖面に一条のさざなみを起こすがごとく。

その構えは、一分の揺るぎもない中に一筋の光明を見るがごとく。

その足もとは、脱兎を彷彿とする俊敏さと、ひとつおきに飛んで行くケンパのごとく軽く。

これすなわち三一の法にて、静かに振り上げた今朝の朝刊を、閃光の走るがごとくゴキブリに打ちおろし、見事一発でしとめ、心底ホッとしたのも束の間。



次にゴキブリさんの遺体をかたさなければなりません(泣)

ほんとは一箱分くらいのティッシュを重ねて、眼をそむけつつ、そぉ~っとさわりたいのですが、まだガキどもが障子の影から見てやがるんで、 2 ~ 3 枚程度に抑えて、またもや心神喪失状態で遺体処理に移ります。

とまぁ、これくらい虫全般がキライなわけで、こんなワタシに蚕のさなぎの黒焼きを食え、というのでしょうか。



お客さんの視線が痛い…(笑)

恐る恐るハシをつけます。

黒焼き状態なわけですから、けっこう外側はしっかりしてます。

これが



ぶにゅ



とかで、つぶれちゃったりしよーもんなら、もー全身が総毛立ち、手をついてでも、毒味は勘弁してもらうとこですが、しっかりハシでつかめます。

でも、これって、歯を立てなきゃいけないぐらい、つまりそれほどしっかりと噛まないと、決して丸飲みできるようなシロモノぢゃない、ってことですよネ(哭)



ここで、じぃ~っと見つめようもんなら、さらに総毛立っちゃいますから、いかにも

♪フフンフフン

みたいに鼻歌ぐらい歌いだしかねない気軽さで、ハシでつかみ、ポイ! っと口の中に放り込みました。



噛みます。



ぶにゅ



さわやかな春の風がやさしくワタシのほほをなで、だんだら模様の雲が血のように真っ赤な空に音もなく流れていきます。

ふとあたりを見渡すと、な、なんか河原のようなところに立っており、ところどころに石が塔のように積み上げられています。

そしておどろおどろと流れる川の向こうには、とうの昔に亡くなったおじいちゃんとか、おばあちゃんとか、親戚のおじちゃん、おばちゃんたち、事故で亡くなった友人など、なつかしい顔が見え、みんなニコニコしながら、さかんにおいでおいでをしています。



あぁぁ



この川の向こうには、現世の苦しみや 108 つの煩悩などから解き放たれた永遠の都があるのだ。

ワタシは一歩、前に踏み出しました。

川は浅瀬のようで、容易に渡れそうです。



また一歩。

さらに一歩。

もうワタシの足は、打ち寄せるさざ波にほのかに濡れ、川向こうの親戚縁者たちは、

「それ、もうちょい!」

みたいな感じで、んもーすげーニコニコしちゃって、手首も折れんばかりに、おいでおいでをしています。

ワタシはなにかに憑かれたように、フラフラと足首あたりまで川に入った瞬間、鮮やかにコケむした小石に足を取られ、コケた瞬間、



我に還りました ヽ(^^;



そーです。

奥歯で噛んだ瞬間、その物体はぶにゅっとつぶれ、中からとろとろの、やたらと口内にまとわりつく、液体っつうか、クリームっつうか、コロイド溶液っつうか、とにかくそんなモンが口中に広がり、同時に鼻腔に得も知れぬ生臭い悪臭が充満しました。

一瞬、吐き出しそうになったワタシは、それでも職業意識の為せる技か、さらにもう一口噛むっつうと、とろとろの中に、な、なんかかたまりがあったっす。



ひでぶ



「うがあああああああああああああ」



反射的に立ち上がったワタシは、口を押さえ、後ろのテーブルにあった灰皿に突進しました。

わずかな距離でしたが、ワタシにとっては永遠に等しく、ひきつる全身を何とか制御しつつも灰皿めがけ、口中に広がりつつあった物体を吐き出しました。



ダメダ



すっかり我に還ってしまったワタシは、全身の血が南京玉すだれよろしく毛穴から吹き出すほどに総毛立ち、とにかく口に入っている物体を吐き出し続けました。



あまりのワタシの反応に、静まり返ってしまったお客さん。

あまりの思いがけない外国人の奇行に、呆気にとられるレストランの従業員たち。

あまりの思いがけない味に、すっかり涙目となったワタシの眼に飛び込んできたモノは、灰皿に捨てられた、薄クリーム色の物体でした。



ところどころ、な、なんか固まりもあるっす。

肩で息するワタシの後ろ姿を見つめていたお客さんと、レストランの従業員たちから、やがて、

「ク、ククク…」

みたいな平和のシンボル鳩の鳴き声のような、はたまた往年の桜田淳子のヒット曲 [青い鳥] の

「♪クッククックウ クッククックウ」

みたいな声があがったかと思った瞬間、それは

「ギャッハッハッハッハ」

という大爆笑に変わっていきました。

そ、それはないだろ、お客さん…(涙)



「ヒーヒー ハ、腹痛テェ… わ、わかったヨ、添乗員さん。いったいどんなシロモノなのか、よぉっ~くワカッタ」

ワタシゃぁ、もー恥も外聞もなく、ウエイトレスにミネラルウオーターを持ってこされると、トイレで納得いくまでウガイをし続けました。



すっかり血の気が引いたワタシは、テーブルに戻ると、てれてれと座ります。

「しっかし、添乗員さんですら、こんなんなんだから、スゲーんだなぁ、これ」

「そーそー」

「で、どんな味がしたの?」



ま、まだ聞くか、コイツ…

「い、いや… どんな味と言われても… 見ての通りですよ」

で、お客さんの中から、こんなモノを果たして中国人はまともに食べているのだろーか、というもっともな疑問が提出されました。



んで、料理を運んできたおねえちゃんに聞いてみます。

彼女が答えて曰く、

「食べられないモノを出すわけないでしょ。冬場の貴重なタンパク源ですからねー ワタシたちは美味しいと思いますよ」

「んじゃぁ、ちょっと食べてみてヨ」

「では、ちょっと失礼して」



パクッ

モグモグ…



おねえちゃんの口元をじっと見ているうちに、さっきの悪夢のような味覚が口中に広がり、またむせてしまいました。



「オイシイ…?」

「好喫(オイシイ)」



さらにおねえちゃんに聞いてみますと、確かに中国東北部では割とポピュラーな食材だそうで、こうやって黒焼きにして食べるのが一般的だそうです。



が…

コレだけはダメでした。

しばらくの間は、あの



ぶにゅ



っていう食感と得も知れぬ香りが忘れられず、食欲不振に陥ったほどですから(泣)



中国には、このようなさなぎの黒焼きの他にも、けっこう虫を食します。

広東地方ではタガメとかゲンゴロウを干して、ぱりぱり食べたりしますし、日本だって、蜂の子とか、いなごの佃煮なんかを食べますよね。



自国の食文化にないものだからと言って、単純に毛嫌いしたり、

「あーゆーのを食べるヤツの気が知れん」

みたいに思ってますと、それがいつしか人種差別につながったりもするのではないか、と。



例えて言えば鯨。

日本の食文化の一端であるにもかかわらず、欧米から政治がらみでいやがらせとも言える不当な圧力を加えられています。

これって、一種の人種差別だと思うんですけどね。



ワタシは小学生の時の給食で鯨フライをさんざん喰わされた世代であり、別に鯨は好きでもキライでもありません。

たぶん、この先、一生鯨は喰えないよ、と言われても痛くもかゆくもないですけど、捕鯨反対論者にはムカツイとります。

まぁこの辺を書き出すと、とっても長くなってしまいますので、このあたりにて。



その 6 ◆ Legend of Chinese Foods

よく、

「伝説の~」

と冠がつくヤツを見受けますが、中国料理にもそんなんがあります。

昔、何かの本で読んだので、果たして実在しているものなのか、あるいはただのお話しなのか、一度も実物にはお目にかかったことはありませんし、実際に食べたという人も知りませんので、おそらくは眉ツバだと思うのですが、まぁあまり深く考えずにトコトコいきましょう。



この料理を作るには、まず家を建てます。

家と言っても、掘っ立て小屋程度で十分なんですが、とりあえずは外部と遮断されていることが条件になります。



小屋ができたら、中に池を作ります。

池ができたら、大量のぼうふらを池の中に放出します。

時期としては夏前がいいですね。

すると、池の中のぼうふらはどんどん孵化して、蚊になります。



んで、蚊が存分に生き血を吸えるように、かごか何かに入れた小動物を 2 ~ 3 匹置いときますです。

こうしてやると、外部から遮断されて天敵のいない蚊さんたちは、我が世の春を謳歌すべくどんどんどんどん増殖します。



しまいには、あまりに大量の蚊のために前も見えないほどになるわけで、ここでダイエット中ながらも、挫折しそうなこうもりを数匹、小屋の中に放ちます。

当然のごとく、こうもりさんたちはごちそうを前に我を忘れ、んもー とにかく喰いまくるわけですね。



食べた後には、生物共通の法則、つまり排泄があるわけでして大量の蚊を食べ尽くしたこうもりの糞は、まぁそれなりの量になるわけです。

次に糞を一カ所にかき集め、薄絹ときれいな水で何度も何度も洗い、漉すってぇ~っと、薄絹には未消化の目玉の部分が残るわけで、これこそが正真正銘の幻の中華料理、蚊の目玉であります。



いくら大量と言っても、所詮は蚊の目玉ですから、そんなに多くは集まりません。

せえぜえ小さなティースプーン一杯分くらいなものだそうで、これに酢をかけて食するそうです。



これだけ時間と手間をかけて、スプーン一杯、つまり一口分にもならないほどの量なわけですが、これがまたぷちぷちと堪らない食感で、中国四千年の歴史の中でも、こいつを食したことがあるのは片手に余るのではないか、と。



よくもまぁ、こんなことを考えつくもんですが、これはやはりお話しの部類でしょう。

常識で考えても不可能なことはわかりますしネ。



こんなヨタ話しではなく、実在する伝説料理ももちろんあるわけでして、代表的なものは 「仏跳墻」 かな。

これは明代ぐらいのツボを使い、烏骨鶏オオサンショウウオ、ツバメの巣、キヌガサタケ、あわびやなまこと言った、いわゆる高級食材をふんだんに用いて、目張りした家宝級のツボに入れて、ことこと煮込みます。

数日間、煮込んでいる間、頻繁にアクを取り、火加減を調整し、と、これまた料理人がへばりつきで見守るという、非常に手間ヒマがかかる料理です。



こうしてできあがったスープは、深い琥珀色で一点の濁りもなく、まさに馥郁たる香りが立ち上るといいます。

この香りをかぐと、修行中のお坊さんでも垣根を飛び越えて食べに来る、というのが名前の由来でして、材料と手間ヒマを思いっきりはしょった 「なんちゃって仏跳墻」 は何度も食べたことがありますが、本格的なのは未だに食べたことがありません。



以前、会社の先輩が会員であった香港の会員制ヨットクラブのレストランでは、一ヶ月前の予約で食べられたそうですが、その先輩も今はどこで何をしているのか、消息不明(笑)

一度、食べてみたいと思ってるんですけどね。

どなたか一緒に香港あたりまで行こうという好事家はいませんかネ。



エピローグ ◆ ほんとうに美味しいもの

ヨタ話しや気分が悪くなるモノまで、いろいろと書いてきましたが、ワタシが生涯忘れないであろう料理をふたつ書きます。



ひとつは学生の時。

中国東北の吉林省あたりをフラフラと旅行していたワタシは、詳しい経緯は忘れましたが、一日半ほど何も食べられず、道ばたにへたりこんでたんですね。

たまたま通りかかった地元の朝鮮族(中国には 50 以上の少数民族が生活していて、中国領内で暮らす朝鮮の人たちは朝鮮族という名称で、少数民族のひとつに認定されています)のおじさんに、

「おい、どうした?」

みたいに聞かれました。

「こ、このへんにメシ屋はないですかね…?」

「メシ屋はないけど、腹減ってるなら、俺んちに来い」



地獄に仏でありました。

連れていってもらったおじさんの家は、典型的な中国東北の農家で、ところどころ土塀が崩れかかっているような、かなり古い家でしたが、内部はこざっぱりしていました。

おじさんが、たぶん自分の奥さんであろうおばさんに、朝鮮語で何かしゃべってます。



やがて食卓には湯気を立てている炊きたてのごはんと、玉子とタマネギの炒め物、それにキムチとスープが並べられました。

「遠慮なく喰いな」

ウマカッタです。

これはもうほんとうにウマカッタ。

ただ、あまり極端な空腹だと、かえってたくさんは食べられないもので、おじさんももっと喰えとさかんに薦めてくれるんですが、も、もう食べられないっす。



食後、おじさんたちと話しをしていたのですが、

「ところでお前はどっから来た?」

と聞かれました。



戦争中、日本軍はこのあたりで残虐の限りを尽くしたので、相当根強い反日感情が残っているわけで、ワタシは正直に答えていいものか迷いました。

香港人とか台湾人とか言っても、ごまかしきれたとは思うのですが、ほんとにツラかったワタシを救ってくれたおじさん、おばさんにウソをつく気にもなれず、



「あ、あっしゃぁ実は日本人なんでございます」



と告げたところ、今までニコニコしていたおじさんの顔が一変し、満面朱を注いだように赤くなり、それはまるで憤怒の赤鬼の様相を呈し、すくっと立ち上がるや否や、裏手の納屋から刃渡り五尺五寸の青龍刀を持ち出し、スパっと断ち切る音も快く、ワタシの首は胴体から離れ、首から真っ赤な鮮血が噴水よろしく吹き出したりせず、

「ふぅ~ん」

と、一言。



「で、日本の学生がこんな田舎で何やってんだ?」

とかで、まるで歯ごたえのない反応なのでありました(笑)



結局、このおじさんの家でお昼をごちそうになったばかりか、夕飯までごちそうになってしまい、おまけに食後は一番近い長距離バスターミナルまで、トラクターで送ってくれました。



何のお礼もできないワタシは、せめて食事代でも払いたかったのですが、

「いらんいらん」

と、受け取りません。



で、こーゆー場合、ワタシの乗ったバスを見送るおじさんは、いつまでも手を振っていた、とかでしめくくるのが普通でしょうが、そのおじさん、ワタシをターミナルに送ると、

「じゃぁな」

とかで、あっさりと帰っていきました(笑)



でも、おじさん、ほんとにありがとう。

生涯忘れられない、ウマイメシだったっす。



もうひとつ。

これまた中国東北でのことですが、蒸気機関車の撮影ツアーというのがありまして、これは拙宅でもちょこっと書きましたが、零下 30 度ぐらいの極寒の中、全身につららをぶらさげて凍りついているような機関車を撮影するわけですね。

当時でも機関車の数は減っており、撮影できるのも日にわずか数本、ということもありました。



お客さんは思い思いの場所に三脚を立て、辛抱強く機関車がやってくるのを待っているわけですが、まぁ海外まで撮影に出る、というのは相当ディープなファンであり、連中 ヽ(^^; オ客サンデショ にしてみたら、この酷寒なんか屁でもありません。

寒ければ寒いほど、機関車が吐き出す白煙が映えるわけで、むしろもっと寒くなれとかで、念じてるぐらいですからね。



堪らんのは、ワタシとか現地ガイドとか、バスのドライバーであります。

零下 30 度の中を、日がな一日立ってる、というのは、けっこうツライもんがあります。



ガイドとドライバーは、さっさと付近の農家にあがりこみ、ひまわりのタネをかじりながら世間話とかしてまして、まぁワタシもこの中にいてもいーんですが、やっぱり何か不測の事態が起きないとも限らないので、自然、あたりをウロウロすることになります。



シーンと静まり返った山の中。

雪を踏むしめる自分の足音だけが聞こえます。

気温は零下 30 度。

一度、おしっこをしてみたことがありますが、思ったほど何もなく、すんなりとできました(笑)



でも寒い。

とにかく寒いです。

その中を、ガイドとドライバーができたてホカホカの肉まんじゅうと、熱いお湯の入った魔法瓶を数本抱えて歩いてきました。



お昼の時間なんですね。

このような寒さの中で、一番うれしいのは、やはり熱いものを食べることです。

さめないように、何重にもくるんで、毛布をかけてあります。

お客さんに配って歩きました。

冷え切った体で、ほくほくと肉まんをほおばる姿は、みな笑顔。



全員に配り終わったところで、肉まんはなくなりました。

「あれ、俺の分は?」

「え? お前は俺たちと一緒に、あそこの農家で食べようよ」

ん~… まぁそれでもいいや。

だけど、せっかくここまで来たのに、あそこまで戻るのもかったりーなー

んでまた、喰い終わったら、ここまで帰ってくるわけだし。



「んじゃぁ、あんたらは先に戻っててくれ。俺はもうひとまわりしたら、戻るから」

「あいよ。寒いから、なるべく早く戻ってこいよ」

「はいはい」

みたいな会話を交わし、ワタシはまた歩き出しました。



小高い丘の上や、ちょうど線路がカーブするあたり、また何を思ってか大平原の真ん中に三脚かまえてるお客さんもいますけど、みんな一様に肉まんをパクついてます。

とりあえず昼メシはだいじょうぶなようですね。

んじゃぁワタシもメシにしますか。



と引き上げようとしたところ、早くも肉まんを食べ終わったお客さんから、

「添乗員さぁ~ん」

と大声で呼ばれました。

はいはい、と走っていくと、もう一度列車ダイヤの確認をしたい、と。

んで、あそこに見える保線小屋で聞きたいんだけど、通訳してくれませんか、と。

んで、ふたりで保線小屋に行きました。



レンガ作りの粗末な小屋ですが、中にはふたりほど鉄道員がいまして、

「わざわざ、こんな寒い中で、あんなぼろぼろの機関車を撮るヤツの気がしれん」

みたいに言われましたが、親切に教えてくれました。



お客さんはそそくさと自分のポジションに戻っていきましたが、だるまストーブが赤々と燃えて、暖かいこの小屋から、なかなか出る気になれません。



ちょっと暖まらせてもらおうと思い、なんやかんやと鉄道員たちと話しをしてましたが、そのうち一人が、昼飯を作り始めました。

こんな粗末な小屋でも、ちゃんとかまどがあるんですね。

んで、でっかい中華なべもあります。

連中は、ちゃぁ~んと、ここでおかずを作って、それで食べるんですね。



ちなみに、中国人は一般に冷たいご飯は食べません。

日本でも恵まれない境遇のことを 「冷や飯喰い」 と言いますが、中国人の感覚はそれを上まわり、さめたメシなど、ほとんど人間の食い物ぢゃねー! ぐらいのもんです。

ワタシたちは小学校の遠足なんかで、おかあさんの作ってくれたお弁当を食べ、ほんとに美味しく、母の味みたいに思えますが、この辺は民族の考え方の違いであります。



んで、連中も野菜やら肉やらたまごやらをジャージャー炒め始めました。

いーニオイ(笑)

腹減った…

んじゃ俺も引き返すとするか…

と立ち上がった時、

「おい、あんたの分も作ってるんだから食べていけ」



おー



あ、ありがたいお話しです。

わたしゃ、あの農家でガイドとドライバーが待っていることもすっかり忘れちまい、

「そーですかー んじゃぁ、お言葉に甘えてぇ~」

みたいに、連中と食卓を囲みました。



いやいや

これもウマカッタ

何せ文字通りのできたてですからネ

外は零下 30 度の極寒で、掘っ建て小屋ながらも、ぽかぽか暖かい部屋の中で、できたてのメシを喰う。

これを至福と言わずして、何というって感じです。



すっかり満腹したワタシは、いらないというふたりの手に、ちょっと多めの昼飯代を渡し、帰路につきましたが、あ… いけね… ガイドたちのことすっかり忘れてた。

うわぁぁ 怒ってんだろーなー

もう 2 時だもんなー(笑)



で、はぁはぁいいながら農家に急ぎ、中に入るってぇと、

「どうした? なんかあったのか?」

「あ、いえいえ、あ、あのーすいません、昼メシなんですが、こーゆーわけで喰っちゃいました」

「あのなー それならそれと言ってくれよ」

って、まぁごもっともですが、この状況でどーやって

「それならそれと言え」

というのでしょう(笑)



というワケで、いつにも増して冗長なだらだらテキストを書いてきましたが、ここまで読んでいただけた皆様、ありがとうございました。

けっこう長いテキストですので、読む方もそれなりにかったるかったと思いますが、最後まで読んでいただけた労苦に敬意を表し、ワタシの指もツリそうですので、このあたりにてお開きとさせていただきます。

BGM ● Al Yankovic   (笑)